映画『ダンケルク』感想
タイトル 『ダンケルク』
点数 4.0/5.0
・多くの作品とは違う戦場
・空戦が熱い
・新たな映画の描き方
第二次世界大戦を描いた作品は多い。
ただ、この作品では「ダンケルクの戦い」という少し変わった戦闘が描かれてる。
多くの作品では、ノルマンディー上陸作戦などの連合軍側の進撃が描かれる。
しかし、この『ダンケルク』はイギリス軍がドイツ軍に追われ、本国へと逃げ帰る話なのである。
話は3つの視点から描かれる。
1つ目の視点は、ダンケルクの海岸に追い詰められた兵士たち。
ほんの少し内陸にはドイツ軍が迫っており、時たま敵の爆撃機が飛んでくる。
わずかな救助船のスペースは、負傷兵であっという間に埋まり、順番を待つ兵士たちで長蛇の列ができている。
海岸という開けた場所でありながら、ここまで重い閉塞感が感じられるのは驚いた。
この映画では敵兵がほとんど出てこない。
弾が飛んできたり、飛行機がきたりするだけで直接ドイツ軍兵が出てくることはほとんどない。
この、直接出てはこないが近くにはいる、という演出が見ている私にイギリス軍兵たちと同じ気持ちを抱かせ、重苦しい閉塞感を生んでいるのだろう。
もう1つの視点は、イギリス軍のパイロット。
有名なイギリス軍の戦闘機「スピットファイア」にのってダンケルクへと支援に向かっている。
空戦のシーンがたびたびあるが、これがカッコイイ。
YouTubeにもメイキングの映像があるが、なるべくCGを使わずに実際に飛行機を飛ばして撮影したそうだ。
ただ、実際の飛行機を使ったからだけではなくて、見せ方もうまい。
戦車などの地上での戦闘と違い、飛行機の戦闘は三次元での戦いである。
しかも、空には物がなく相対的な速度もつかみにくい。
それを二次元の画面(スクリーン)でどう表現するかは大変難しい。
実際の飛行機にカメラをつけてパイロットの姿やそこから見える景色を撮影したことも功を奏してか、大変臨場感と迫力があった。
また、空戦の勝敗を白煙という「記号」を用いて分かりやすく表現しているのも良かった。
そして3つ目の視点が、兵士たちを助けに行く民間船の視点。
兵士たちの苦しい姿を劇中で見ているからこそ、ダンケルクへ何の装備も持たない彼らが向かっていく姿に、強く心を打たれた。
これらの3つの視点は時間関係が前後しながらつながっている。
しかし、この映画では最初、この時間関係は無視して3つの視点が同時並行的に描かれ、最後になるにつれてつながっていくようになっている。
このような描き方をすることで、106分の映画でありながら2時間を超える大作のような見ごたえを感じた。
この映画では登場人物を中心としたドラマは描かれていない。
私は、見終わった後、誰が主人公だったのかも分からなかったし、登場人物の名前も誰一人として覚えていなかった。
しかし、登場人物たちが劇中で感じた恐怖や緊張、喜びは知っている。
この感覚は少し不思議な感じがした。
最後、兵士たちがイギリスに帰ってくると、世紀の大撤退に成功したことに歓喜する人々が待っている。
兵士たちは、自分たちは逃げ帰ってきたと沈んだ気持ちでいたのにもだ。
この後自分たちの頭の上にドイツ軍機が飛んでくるとはまだ思っていないのか、それともその後の反撃のために必要な活力なのか、どちらなのだろう。
ただ、暗い現実の中にも希望を見出すことは、苦しい中で生きていくために必要な力なのかもしれない。