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【読書】ジョージ・オーウェル『動物農場』を読んで【感想】

 動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)

ジョージ・オーウェルといえばディストピア小説である『1984年』が有名だ。

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

政治に対する風刺としてや批判をするときによく挙げられる。

近年では、アメリカのトランプ大統領の就任式に関する「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」という発言が、『1984年』に出てくる「二重思考」(相反する二つの考えをどちらも正しいと受け入れること)と同じではないかと話題となった。

史上最大の就任式は「オルタナ・ファクト」トランプ大統領の顧問がキッパリ。え、何それ? | ハフポスト

もう一つの事実 - Wikipedia

 

このように政治への批判としてよく取り上げられるジョージ・オーウェルの作品。

しかし、上記のハヤカワepi文庫版の訳者のページにも書いてあったが、この本は読んだふりをする人が多いらしい。

下記はイギリスでの調査結果。

英国人の大半、読んでいない本も「読んだふり」=調査 | ロイター

これによると、読んだと嘘をついたことがる本1位が『1984年』で、回答者の42%とある。

 

かくいう私も読んだふりをしていたひとりであった。

新聞やネットでニュース記事を見ているときに、「二重思考」や「ニュースピーク」といった単語が出てきても「『1984年』に出てくる言葉でしょ、その意味はこうでしょ」とネットで聞きかじったような知識で知ったかぶりをしていた。

 

ただ、いつまでも読んだふりではまずいなと思っていたし、個人的にも時間ができたので読んでみることにした。

1984年』には、その習作というか、書くために重要な役割を果たしたであろう作品がある。

それが、今回感想を書く『動物農場』である。

1984年』よりも短くてすぐ読めるので、とりあえずこちらから読んでみることにした。

ここまでが、『動物農場』を読もうと思った動機である。

 

ここからが、『動物農場』の感想。

この本は短いためか、日本語訳がいくつかある。

私が読んだのはトップに貼り付けているのと同じ、岩波文庫のものだ。

この本の訳者はオーウェルの研究をしていたらしく、文章中の随所に注が入れてあり、後ろで詳しく解説してくれている。

もちろんなくても十分分かるだろうが、それぞれの動物の種による違いや聞きなれない農耕器具、そして様々な種類が出てくる馬車については大変勉強になった。

 

内容は、農場の動物たちが不当に搾取する人間たちを追い出し平等な社会を築くが、今度は一部の豚たちによる独裁が始まるという話。

私が読んだ岩波文庫版では、本編の後ろにオーウェルの書いたあとがきなどがいくつか載っているのだが、そこにもあるようにこの本で書かれているのはスターリン主義への批判である。

 

オーウェルの書いたあとがきで、私が強く印象に残っている部分が2つある。

1つは、とにかくこの本がなかなか出版できなかったこと。

この本は1944年の段階で出来ていたが、いくつもの出版社に断られ、結局出版できたの翌年の1945年の8月に入ってからだとあった。

その理由は、年代からもわかるように当時は第二次世界大戦中で、イギリスはソ連と同盟関係だったから。

オーウェルいわく、戦時中だから検閲があるのは分かるが、早期講和論を唱える論評など自国の政策批判が許されて、この本が許されないのは分からないと。

そして、この本の出版が許されたのは第二次大戦が終わり、今度はイギリス社会が反ソ連へと傾いたから。

翻訳本がヨーロッパ各国で配られ、反ソ連の教材として利用されたらしい。

何とも社会情勢に翻弄された本である。

 

そして印象に残った2つ目が、スターリン主義への批判を許されない左派の雰囲気である。

この本が書かれた、第二次大戦が始まったころのイギリスでは、大粛清が行われた後であるにもかかわらずスターリン主義に対する批判はほとんどなかったそうだ。

特に左派の中ではそれがタブーで、自分たちが理想とする共産主義を実現したソ連には問題などあってはならないのだとされていたと。

スペイン内戦に参加し、そして左派論壇にいた彼だからこそ、このことを強く感じたのだろう。

あまり政治的なことは書きたくないが、この辺りから、右派的視点から反米軍基地などの反米を唱える人の少ない現代日本との共通点を感じた。

 

本編の話に戻ると、タイトルにもあるようにこの本の話は「おとぎばなし」である。

登場人物たちがみな動物であるのも、話が淡々と進んでいくのもまさに「おとぎばなし」の形にのっとっている。

動物たちが最初に決めたルールが、少しの文言が付け加えられるだけで内容が大きく変容していくことが幾度も繰り返されるのも「おとぎばなし」の技法であり、そしてそこに恐怖や怒りとともに笑いも感じてしまう。

幼い子でもわかる「おとぎばなし」の技法にのっとっているからこそ、話の核心が読者にまじまじと突きつけられる。

そして読んでいる我々にはそれが喜劇として映る。

そんな風に感じてしまった。

 

いくつもいる動物の中から私が共感したのは、ロバのベンジャミン。

文字の読み書きもできない動物が多い中、ベンジャミンは他の動物よりずいぶん賢いが、その賢さをあまり活かさず必要最低限の仕事しかしない。

そんな彼の親友であった馬のボクサーは、誰よりも働き農場に貢献していたにもかかわらず、独裁者の豚たちにより、ひどい最期を迎える。

この部分も「おとぎばなし」の形だからか、読んでいて少し笑えたのだが、親友のボクサーの残酷な最後を目の当たりにしても、結局何も行動しなかったベンジャミン。

そんな彼を見ていると、こういう人間は世の中にたくさんいるだろうし、自分もそんな一人ではないかと考えてしまった。(そもそもそんな頭もないかもしれないけれど。)

物語の主人公ならばここで行動を起こすであろうところで何もしないその姿に、強い共感を覚えた。

 

本の内容よりも、読もうと思った理由や作者のあとがきについて多くの文面を割いてしまった。作者のあとがきや訳者の注が大変参考になるので、読むのであれば岩波文庫版をお勧めする。(まあ他の版は見てもいないのだが。)

 

次は『1984年』について書く。

動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)

動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)